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東京高等裁判所 平成2年(行コ)19号 判決

神奈川県藤沢市朝日町1丁目11番地

控訴人

藤沢税務署長 伊藤義一

右指定代理人

野崎守

外3名

神奈川県藤沢市鵠沼松が岡4丁目20番8号

被控訴人

株式会社大和田工務店

右代表者代表取締役

原田操

右訴訟代理人弁護士

小室恒

右当事者間の納税告知処分等取消請求控訴事件について,当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

(申立)

控訴代理人は,「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は,第一,二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め,被控訴代理人は,主文第1項と同旨の判決を求めた。

(当事者の主張)

当事者双方の主張は,原判決事実摘示のとおりであるから,これを引用する(但し,原判決6枚目10行目の「冒頭」を「冒頭部分の主張」と,同裏5行目の「昭和61年」を「同年」とそれぞれ改め,同7枚目表3行目の「(六)」の次に「の主張」を加え,同11枚目表5行目「本件処分を違法とはできない」を「本件処分が違法とはならない」と改め,同裏3行目の「せず」の次に「,」を加える。)。

(証拠関係)

原審及び当審記録中の証拠目録記載のとおりであるから,これを引用する。

理由

一  請求原因1,2の各事実(本件処分の存在及び不服審査の経緯)は当事者間に争いがない。

二  そこで,本件処分の違法性について検討する。

1  争いのない事実

原判決12枚目表末行から同13枚目裏3行目までを引用する。

2  控訴人は,本件処分の理由として,被控訴人が本件土地を売却した代金を大和田武に提出したのは賞与にあたると主張するので,この点について判断する。控訴人の主張する右売買について考えてみると,本件土地の大栄不動産に対する売主が被控訴人であると認めるに足りる的確な証拠はない。

すなわち,成立に争いのない甲第1号証,第4,5号証の各1,2,第6号証,第10号証の2,3,第11ないし第15号証の各1,2,第16ないし第25号証,第26,27号証の各1,2,第29,30号証,原本の存在及び成立に争いのない甲第10号証の1,原審証人大和田進の証言により成立の認められる甲第2号証,第3号証の1ないし4,第7,8号証の各1,2,第9号証,第28号証,同証人の証言及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められ,他にこれを覆すに足りる証拠はない。

認定事実については,原判決13枚目裏12行目から同17枚目表4行目までを引用する(但し,同13枚目裏12行目の「原告」から同14枚目表1行目までを削り,4行目の「者である」から7行目の末尾までを「者である。」と,9行目の「買い受け」を「買い受けたが」と,同裏10行目の「取得していた」を「取得し,本件土地を自己の所有に属するものと考えていた」とそれぞれ改め,同表9行目の「200万円」の前に「代金」を加え,10行目及び同15枚目表10行目の各「手続」を削り,同裏12行目及び同16枚目表4行目の各「昭和」の前に「前示のとおり」を加え,7行目の「行い」を「行つたが」と,12行目の「ので」を「のち」とそれぞれ改め,11行目の「昭和63年2月26日」を削る。)。

右事実によれば,前示売買の売主はこれを実質的にみても大和田武個人であり,右売買代金債権は同人に帰属するというほかはなく,控訴人の右主張はその前提を欠くことになる。

3  しかしながら,本件土地が被控訴人の所有に属し,右売買代金全額を大和田武が取得したことは前示のとおりであり,同人は,被控訴人に対し,被控訴人に無断で本件土地を売却したことによる不法行為に基づく損害賠償債務ないしは不当利得に基づく利得金返還債務を負うこととなり,被控訴人がこれを免除した場合には,右金額相当額の利益を賞与として大和田武に支給したとみうる余地がある。

ところで,(1)いわゆる認定賞与も,明示又は黙示的な被控訴人のその旨の行為を要するものであり,大和田武が本件土地を売却し,その代金を取得したからといって,その取得が当然に賞与に当たるものではない。前示のとおり,本件土地の右売買当時大和田武は本件土地を自己の所有に属するものと認識し,被控訴人もまた同様な認識であったところから,大和田武の右代金の取得を放任していたものであるが,控訴人の本件処分及びこれに対する被控訴人の不服申立とその審査を経たのち,これを全額返還させる処理をしたものである。したがって,被控訴人において明示的に大和田武に対して右代金相当額を賞与として支給し,あるいは前示債務に基づく支払義務を免除していたものでないことはもちろん,黙示的にも同様の行為に出たものとみることはできない。

そうだとすると,被控訴人が大和田武に対していわゆる認定賞与を含めて賞与の支給をしたものではないから,これを前提とする本件処分は,その余について判断するまでもなく理由がなく,取消しを免れないといわざるをえない。

三  以上の次第により,被控訴人の請求を認容した原判決は相当であり,本件控訴は理由がないからこれを棄却し,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法95条,89条を適用し,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 丹野達 裁判官 加茂紀久男 裁判官 河合治夫)

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